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戸籍変更はゴールか?―あるMTF女性の現在


「名前と体と戸籍を変えて、男性/女性として生きることが、性同一性障害者の幸せであり治療目標だ」という考え方があります。そう考えている当事者は、自分がどんなふうに診断書を取ったか、どんな手続きで名前を変えたか、ホルモン注射や手術はどこでしたか、今パートナーと暮らしてどんなに幸せか、ということを積極的に発信しやすいでしょう。

しかし「やらなければ良かった」と後悔している当事者は、自分を傷付けるような情報をあえてオープンにしません。そのため、一部の「成功例」が雛形として独り歩きしていると感じることがあります。このコラムではあえて「失敗例」を挙げてみたいと思います。

ある40代のMTF女性(以下Aさん)の話です。Aさんはまったく別の病気で入院したのですが、その際にAさんの成育歴に興味を持った医師から、「あなたは性同一性障害ではないか」と言われました。医師の説明を聞くと確かに納得できる。自分の今までの生きづらさは性同一性障害から来ていたんだ。そう思ったAさんは、医師が勧めるままカウンセリングを受け、ホルモン注射を始め、性別適合手術を受け、名前と戸籍を変更しました。その間、Aさんは一度も他の当事者に会わなかったそうです。「医師がそう診断したのだから、医師の言う通りに治療すれば何も問題はないと思っていた」とAさんは言いました。

そしていざ女性として就職活動を始めたところ、Aさんは大きな壁にぶつかりました。Aさんは女性としてパスするには難しい容姿だったのです。

Aさんは自分が戸籍変更したことはカムアウトせずに就職活動をしていました。しかし一見すると「中年の男性が女性の格好をしている」と思われてしまう容姿で就職活動するのは大変なことでした。面接で「失礼ですが、本当に女性ですか?」と聞かれたこともあったそうです。また就職が決まっても、出社1日目に女子トイレに入ったところ、「女装した男性がいる!痴漢だ!」と騒ぎになって、辞めざるを得なくなったこともありました。

仕方なく戸籍変更したことをカムアウトして就職活動をしても、「以前は男性だった人と同じ更衣室を使いたくない」という現場の女性からの反発があり、Aさんは行き詰ってしまいました。現在Aさんは年金暮らしの両親からの仕送りで何とか生活しています。両親が亡くなった時のことを考えると恐ろしくなると、Aさんは言っていました。

私たちは性器や戸籍を見せて歩いているわけではありません。現実の生活では「男性/女性に見える」容姿の方が重要視されることもあります。「性同一性障害だから、外見に関わらず、自分を男性/女性として扱ってくれ」という主張が通らないこともあるのです。

Aさんが性同一性障害の診断を受けた後、他の当事者に会うことがあれば、また違った結果になったかもしれないと思います。当事者の中には「名前と体と戸籍を変える」以外の方法で、自分の納得の行く生活を送っている人もたくさんいます。自分の体が嫌だから性別適合手術を受けてホルモン注射をしているけど、失職するのも嫌だから戸籍は変更せず男性として会社員を続けている人。手術やホルモン注射はしないけれど、家では女性の服を着て生活することで満足している人。女性に見えるには難しい体型だから、あえてそこを強調してゲイ男性にモテることを選んだ人。こういった例はFTMやFTXにも言えます。

このコラムを読まれた方には、重要な決断を下す前に多様な生き方をしている当事者に会ってもらいたいと思います。どんな治療をすればどんな弊害があるのか、どこまでやれば自分は納得するのか、どんなチョイスが自分の幸せにつながるのか。それを医師や特例法といった他人の判断に任せず、たくさんの選択肢の中から自分で選ぶこと。それが自分のQOLを上げる道になると思います。

(サポーター)

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